ぐりぐりと色彩が重なり合う。
 子供特有の幼い線。
 様々ないろが重なり合って
 そうして一つの絵になる。

<クレヨン>

 赤、青、黄、緑――
 様々なクレヨンの色彩が混ざり合う様を、サイサリスは黙って見ていた。
 緑の草と青い空、黄色い蝶と赤い花。
「ねぇジーン、それは何処だい?」
 尋ねると、ジーンはぱっと顔を上げる。
「これはね、じいちゃんと行ったトコ! えっと…何処だっけ?」
「そっか」
 頬杖をついて、サイサリスはその絵を見る。
 幼い子供特有の線ではあるが、それでもしっかりと描かれている。
「他には行った所、ある?」
「うん! いっぱいあるよ…滝のある所とか、海とか」
「海か…俺、海って見たことないんだよ」
「そうなの?」
「うーん…本でしか見たことなくてね。本物は凄いんだろ?」
「そうだね…」
 青いクレヨンを手に取り、ジーンは白い画用紙の上にそれを走らせる。
 みるみるうちに、白が青に変わっていった。
「大きいし、何処までも続いてるし」
「うん」
「とっても青いんだ」
 白い画用紙の上に、空と海が描かれた。
 水色と青のクレヨンがテーブルの上に転がる。
「へぇ」
「じゃあ、サイサリスはどんな所を見たことがある?」
「そうだね…」
 少し考え込んで、サイサリスは一つのクレヨンを手に取った。

 
 目の前にある光景に、ミストは暫し固まる。
 テーブルの上で眠っているサイサリスとジーン。
 散乱する白い画用紙とクレヨン。
 何気なくその画用紙を手にとって、ミストは目を見開いた。
「あ〜 おかえりぃ…」
 目を覚ましたらしく、サイサリスが半分寝惚けた声で言う。
 その動作が妙に気に入らなくて、ミストは椅子を思いっきり蹴飛ばした。
「いい加減目を覚ませこのドアホ」
「酷い〜〜もっと優しくしてくれてもいーじゃん〜〜」
「黙れ」
 再び椅子を蹴り、サイサリスの鼻先に画用紙を突き付ける。
 黒一色のクレヨンで描かれた一枚の絵。
「これは、お前が描いたんだな?」
「うん」
「なんで、黒一色なんだ?」
「あ」
 怪訝そうなミトの様子に、サイサリスはくすくすと苦笑する。
「はは、それね」
「…答えになっていない」
「悪い悪い。――俺のクレヨンってのは、黒一色だから」
 ミストの眉間に皺がよる。
 訳がわからないというときの彼女の動作だ。
 小さく溜息をついて、サイサリスはその絵を受け取る。
「昔ね――壁に落書きしたんだよ。真っ白い壁に」
「…?」
「最初は十二色くらいあったんだけどね――そのうち、黒しか残らなくて」
 ミストの反応などお構いなしに、サイサリスは話を進める。
 その目に浮かぶのは、昔を見る色だ。
「父さんに頼んでさークレヨン貰ったんだけど…それが、黒だけで。
 だからね、俺の世界はそれ一色なの」
 軽く肩を竦めて、サイサリスは笑って見せた。
「……バカか? テメェ」
 ミストは軽く鼻を鳴らして、その絵をテーブルの上に置く。
 手近にあった黄色いクレヨンを手に取り、その絵の上に走らせた。
 白と黒の世界に、黄色の閃光が走る。
「今のテメェの世界は、モノトーンなのか?」
「あ……」
「そう見えてるなら、テメェは盲目な上に大馬鹿野郎だ」
 サイサリスはその絵を見つめる。
 白と黒と黄色。
「……違うよ」
 薄く笑いながら、サイサリスは緑のクレヨンを手に取る。
 黄色の閃光の下に、緑を塗る。
 白と黒と黄色と緑。
「いまは、十二色でも現せないくらい」
 
 白と黒の僕の世界。
 それを壊してくれたのは
 君が描いてくれた黄色の閃光。

           あとがき。
              『文字書きさんに100のお題』の一つ目。
              クレヨンって小学校低学年くらいまでしか使わなくないですか?
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