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<柔らかい殻>

 誰もまだ気づいていない。
 僕が僕で無くなっていることに。

 君は気付いているのかい?
 僕のことを全て知っていると言った君。

 もしかしたら僕は僕という記憶を詰め込んだ
 粗雑で粗悪なモニュメントかもしれない。
 もしそうだとしても、君は僕を『僕』として認識するのだろう?

 分かっているんだよ。
 僕は殻に覆われていて
 外から見る分には変わりないけれども
 内側では悲鳴が上がっているって事を。

 知ってる?
 僕はね、何度も僕を殺しているんだ。
 この殻の内側は気が狂うような血の匂いで占められていて
 その中にいる『僕』は狂っているんだ。

「ねぇ、何考えているの?」

 君はそうやって僕を覗き込んで笑う。
 その笑顔はとても綺麗だね。

「何考えてるように見える?」
「うーん……難しいこと」
「そんなんじゃないよ。くだらないこと」

 君は気付いていない。
 君が愛した『僕』はもういないことに。
 此処に在るのは。

「結構僕は考えていること単純だよ?」

 一番最初の『僕』の殻をかぶった
 何人目なのかわからない『僕』
 『僕』の殻は柔らかく、姿形を僕に合わせる。
 だから、誰も気付かない。

「そう? 貴方ってば時たま難しいこと考えてるみたいだから」
「気のせいだよ。そろそろ帰ろうか?」
「そうね」

 笑いをこらえるので必死だよ。
 君は『僕』を見る。
 僕は君を見る。
 君は僕を見ない。
 見ているのは、柔らかい殻。

「ああ、雨も止んだみたいだし」

 僕は君を愛してる。
 君は僕を愛してくれる?
 殻の内側にいる、この僕を。

「ああ、そうだ」
「何?」
「愛してるよ」
「……いきなり何言い出すのよ」
「ううん、言ってみたくなっただけ」

 僕は、君を愛してるから。
 君も、僕を愛してよ。

           あとがき。
             突発性SS.
             病的な感じ。
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