君がいつも見ている、深夜番組。
 だから今日は、君は夜遅くまで起きている。
 だから。

<深夜番組>

 携帯電話が着信を告げた。
 一瞬眉をひそめた由紀子だったが、デスプレイに表示された人物の名前に小さく笑みを浮かべた。
「マサ?」
『あー、由紀子? やっぱり起きてた」
 電話越しに聞こえる声は明るかった。
『今日フランス語会話入る日だからね。起きてると思ったんだ』
 電話の向こうから聞こえる、恋人の声。
 クッションを抱え込んで由紀子はテレビに向き直る。
「そうだけど……どうしたの? こんな夜中に」
『んー? 声が聞きたくなった』
「おいおい」
 時計は十一時五十分を指している。
 声が聞きたくなったとか、そう言う理由で電話をかけるには、少し夜中過ぎた。
 ブラウン管の向こうでは、フランス人が簡単な料理の作り方を紹介している。
『フランス語の勉強、進んでる?』
「まーね」
『そっか』
「来年の夏にはフランスに行く予定」
『……今、何月だと思ってるの?』
「十一月」
『早過ぎないかい?』
「いーじゃん。勉強始めるのに早すぎるってのは無いよ」
 あはは、と、電話の向こうから笑い声が聞こえた。
 いつもと変わらないその様子に、由紀子は少し安心した。
『今、何時?』
「今ー? 十一時五十五分」
『そっか、あと五分か』
「どうしたの?」
『なんでもない』
 その時になって初めて、由紀子は彼の息が上がっていることに気付いた。
「マサナオ? どうしたの?」
『んー? 何が?』
「息、上がってるから」
『あぁ、今走ってんの。腹痛ぇ』
「走らなきゃいいじゃん」
『うーん、走らなきゃいけないから』
 電話越しに、聞こえる声は、何処か焦っているようにも聞こえた。
 時計が十二時を告げる。
『あ、十二時?』
「うん」
『そろそろいっか。適当にチャンネル回してみ? 多分臨時ニュースやってると思うから』
 怪訝に思いながらも、由紀子はチャンネルを回した。
 国営から、民営の放送局へ。
 背広を着たニュースキャスターが、何かを読み上げている。
『――の組長を殺して逃亡中の北都正尚を警察は現在――』
『見た?』
 電話越しの声は、笑っていた。
「っ! 何したのよアンタっ!!」
『あはは。金借りたトコがヤーさん経営してててさ、返却間に合わなくて』
「金っ……まさか、あたしの留学費用っ!? 何で」
『だって……愛しい人の夢って、叶えてあげたいじゃん?』
 ずっと聞こえていた足音が止まった。
 息を整えて、電話の向こうから彼は言う。
『カーテン、開けてみ?』
 由紀子は言われたとおりにカーテンを開ける。
  そこには電話の相手――北都正尚が、立っていた。
 笑っていた。
「っテメェなんかとは別れてやるっ! こっちから願い下げだっ!!」
 大声でそう言う。
 それから、耳に当てたままの携帯電話に向けて呟く。
『ごめん。でもこうでもしないと――アイシテル、由紀子』
 ――ッドン
「っ!」
 骨片と血と脳漿が、正尚の頭に開いた穴から飛び散った。
 彼は、笑っていた。
「ぃやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


『――組組長殺害事件で、容疑者北都正尚は本日未明、同暴力団の団員により殺害され』
『容疑者はその場で取り押さえられましたが――』
 深夜のニュース番組が、つい先程起きた事件を告げていた。

           あとがき。
            深夜番組と言えば某国営放送の語学番組が真っ先に浮かびます。
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