それは危険な遊び。 遊びにしてはリスクが多すぎる。 命の危険だって付きまとう。 それでもあたしは、やめようとは思わない。 <ニューロン> 部屋の中に明かりは無い。 正確に言えば、電子機器の明かりがあるのだが、それでも暗いことに変わりは無かった。 その中で、動く人影が二つ。 一つは背の高い、白色固体(アルビノ)の青年。 もう一つは椅子に腰掛けた黒髪の、少女と言ってもいいような容姿の女性。 「今日も、やるのかい?」 アルビノの青年は楽しげに尋ねる。 赤い目に映る女性は手に持ったココアを飲みながら、黙って頷いた。 「当たり前でしょ」 「止めろとは言わないけどね。少しは自分の保身を考えれば?」 「いいじゃない。あたしの体よ」 青年は大袈裟に溜息をつき、同じように持っていたコーヒーカップを口に運ぶ。 その中に入っているのはココアではなくコーヒーだが。 部屋は相変わらず、暗い。 「そうは言うけれど、この間死にかけたのは何処の誰だい?」 「さぁね。昔のことは忘れた きっとニューロンがどこかおかしいのよ。だから恐怖を感じない」 笑うながら言った女性を少し見、それから青年は話題を変えた。 この間彼女を殺しかけた、「プログラム」について。 「『犬』に見つかれば追跡されて、何処から接続しているのか調べられて。 それが分かったら脳細胞を破壊される……随分と凶悪なプログラムだよね」 「作った奴に言われたかないわ」 「僕が作ったのはあくまで基礎だよ。それを悪用したのはアイツ等」 青年は目を細め、嘲笑を浮かべた。 女性はそれを見、小さく溜息をつく。 「だから、あたしに手を貸すのかしら?」 「さぁ? 僕は悦楽主義者なんでね」 電子音が響く。 二人しかいない空間に、それは大きく響いた。 ぽーん。 ぱーん。 ぽーん。 「セキュリティ、解除」 「いつもながら見事ね」 「お褒めに預かり至極光栄」 恭しく礼をする青年に、女性は小さな笑みを浮かべた。 残っていたココアを飲み干して、カップを机の上に置く。 「さっきの話だけどね、ヴィー」 「何?」 「追跡プログラムの話。あれって、公式の場所から専用の機会使ってる奴の場合なんでしょ? 非公式に、しかも非常識な方法使ってる奴には適用されるの?」 「知らないね」 「……創造主が聞いて呆れるわ」 女性は呆れたように笑い、椅子に背中を預けた。 「僕も聞きたかったんだけど、リン。 君が電脳世界にハッキングするときに使う『器』なんだけどさ」 「あぁ、『鈴の音』のこと?」 「十台前半の少年だって事は、何か仇討ち的な意味でもあるのかな?」 青年はそう言って目を細める。 答える側である彼女は目を閉じ、長く溜息をついた。 「さぁね。自分でも分かっていないもの」 「自分のことに対する己の理解なんて所詮そんなものかもね」 キーボードを引き寄せ、青年は慣れた手つきでそれを叩いていく。 椅子に背中を預けていた女性は、黙ってその音を聞いていた。 キーボードを叩く音と、電子音。 「準備は?」 「いつでも」 女性の頭に、何本かのケーブルが降りてくる。 それは音もなく彼女の頭の中に入り、シナプスにへと接続される仮想のニューロン。 白銀の青年が作り出した、世界をも揺るがす発明品。 それで、彼女は電脳世界にへとリンクする。 「いってらっしゃい、『鈴の音』」 青年の声は楽しげだった。 けれどももう、女性にはその声は聞こえていない。 彼女は電脳世界にいた。 電気信号が仮の器に意識を与え、彼女と言う人格を電脳世界上に作り上げる。 それは、彼女にとって、遊びだった。 『いかれてるのかもね、ニューロンが』 青年はその言葉を頭の中で反芻し、笑った。 「いかれてるのは僕のほうさ……リンネ」 今日も、鈴の音は、電脳世界を駆ける。 |
|
あとがき。 ニューロンとシナプスの働きを間違えて覚えていたことが発覚。 人の頭の中は興味深い。 |
BACK |