<ナンバリング>

 作られたのは十六番目だった。
 でも、成功したのは二番目だった。
 初めて成功したのは俺の次に作られた十七番目だった。
 だから俺は「第拾六号・セカンド」とか呼ばれた。
 俺はそれが嫌いだった。
 無駄に長ったらしい名前。
 確かに的確な表現だけど、それは俺の名前じゃない。
 俺の、番号。
 「第壱号」から通して付けられている製造番号。
 一人の人格として安定した二つ目であることの証、「セカンド」。
 どっちかを省かれたりするけど、それは俺の番号であることに変わりは無い。
 俺を表すものがそれしかないって事も。
「……第六研究室」
 目の前にある金属のプレートにはそう書いてあった。
 解読に時間がかかったのはその前半分が血で塗りつぶされているから。
 自業自得とは言え、やっぱここまで派手にやらなければ良かったと後悔する。
 飛び散った血液と脳髄。
 俺を作り出し、研究していた奴らの『生』の証。
 俺の服には付いていないが、辺りの壁には派手に飛び散っている。
 辺りに転がっている奴らは恨みがましく俺を見ている。
 まぁ、アンタ等も自業自得だろ?
 服に血をつけないように歩いていたら、真っ白いシャッターが見えた。
 「ファースト」は、そこにいる、らしい。
 らしいってのは研究員が途中でショック死してしまったから。
 情報はそれしかないから、まぁそこに行くしかないんだけど。
 頭の中で力を集中させる。
 少し遅れて、白いシャッターは無残にひしゃげた。
 自分では結構制御できたほうだと思う。
「はろはろー」
「誰」
 返ってきたのは抑揚に乏しい、小さな声だった。
 部屋の中は暗く、目が慣れるまでに少し時間がかかったが、それでもそこにいる人物は確認できた。
 俺の後に作られたモノ。
 俺の前に人格を持ったモノ。
 「第拾七号・ファースト」。
「奴等はセカンドって呼んでた。製造番号は拾六だけどさ」
「……あの、馬鹿力」
 そういってファーストはシャッターを指差した。
 馬鹿力、っていうか制御が出来ないだけなんだけどさ。
 でも俺は男だから、いいわけじみた事はしない。
「んま、そだね」
「何の用なのかしら。私を殺すの?」
「何で? 今から一緒に逃げようってのに」
 そう。
 俺がここに来たのは、彼女と一緒に、この研究島から逃げるため。
 自分を持った彼女と、外の世界に出るため。
「……どうして?」
「どうしてってさ、ほら。初めての成功品と、二番目と。後にも先にも成功したのは俺たち二人なんだよ」
「だから?」
「うん」
 彼女は少し、目を見開いた。
「セカンド、私は貴方の考えていることが理解できないわ」
「……セカンド、って呼ばないでくれる? 十六号も却下」
「じゃあ」
 何と呼ぶべき? と彼女は訊いてきた。
 だから、俺は答えた。
 自分自身に付けた「番号」。
 研究者ではなく、俺自身が付けた、俺を示すもの。
「一也、って呼んでくれる?」
「かずや?」
「そう、一也」
「……それは貴方が考えたの?」
「おうともよ。お前だって考えるべきさ」
 俺は笑って、彼女に手を差し伸べた。
「自分自身を示す、自分だけの『番号』をさ」
 目の前に座る少女は漆黒の目を俺に向けてきた。
 それから、恐る恐るといった感じで手を伸ばしてきた。
 触れた手は、少し冷たかった。
「ハジメマシテ」
「……はじめまして……かずや」

 その日、海の上から島が一つ、消えた。

           あとがき。
             ナンバリング=番号をつける、または通し番号。
             名前は集団の中で、個を表す番号なんだそうです。
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