そこは息抜をするには丁度良い場所だった。
 滅多に人は来ないし、傾きかけたオレンジ色の光が入ってくる。
 数少ない、俺のお気に入りの場所だった。

<階段>

 煙草を咥えて、ライターで火をつける。
 たったそれだけの動作だったが、俺を落ち着かせるには十分だ。
「……はぁ」
 五月蝿い老僧達から隠れて息抜するには煙草が必要。
 その事を知ったのはいつだったろう。
 老僧達の前で煙草を吸うと五月蝿いから、なるべくここで吸うようにしている。
 ここに奴らは絶対来ない。
 確信にも似た何かが、俺にはあった。
「Don’t know you. people piain,and sorrow」
 小声で、昔聞いた歌を口ずさむ。
 彼のひとがよく歌っていた歌。
 今はもう二度と聞けない、思い出の歌。
「Aa I think that you.My heart be confused」
 何で俺は歌を歌っているのだろう。
 俯きながらそんな事を思った。
「ミスト?」
「っ!?」
「何してるの?」
 手摺の向こうから顔を出したのは、自称カミサマの男だった。
 俺はあまり、こいつが得意ではない。
 人のことに深く干渉しすぎるきらいがある。
「……息抜」
「煙草、灰落ちるよ?」
 そいつが言うのと同時に、ぽとりと灰が落ちた。
 何でか妙に苛ついた。
 ここは、俺だけしか知らないはずなのに。
 俺だけの場所を汚された気分で、俺の声は思わず苛立っていた。
「何でお前がここにいる」
「俺はミストのいる所なら何処へでも現れるの」
「……馬鹿か?」
「うん、馬鹿」

 頷いて、奴は――サイサリスは、薄い笑いを浮かべた。
 本当に苛ついた。
 近寄らないで欲しいのに。
 こいつは確実に俺に近づいてくる。
 まるで、階段を上るように。
「近寄るな。馬鹿がうつる」
「あのさ、ミストって自分以外のひと皆バカだと思ってない?」
「そう思ってるのはサイリだ。俺じゃない」
「じゃあ」
 とん、と階段を上るサイサリス。
 近寄らないで欲しかった。
 それ以上踏みこまないで欲しかった。
 なのに。
「なんで、俺だけバカなワケ?」
 俺の目の前に、奴は現れた。
「……人の気持ちを考えないからだ。バカ」
「ん――、俺的にはしっかり考えてるんだけど。主にミストの事」
「やはり馬鹿だな」
 無遠慮に踏みこんでくる馬鹿。
 それが、奴。
「……ミストってさ、階段の上にいるみたいなんだよね」
「なんだ、いきなり」
「いや、いまふっとそんな事を思ってね。
 俺が追いかけてっても、ミストも階段上っていくから追いつかない」
 ああ、なんで。
 いつもこうやって言って欲しくない言葉を言うのだろう。
「……それで?」
「だけど俺は追いつく予定だから」
 そう言って奴は笑った。
 先程まで苛ついていた気分が何処か、落ち着いた。
 
 追いついて欲しいと、少しだけ思ってしまった。

           あとがき。
              階段って隠れるのには丁度良い場所なんですよ。
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