<はさみ> 「……本当に切るの?」 「煩い。黙れ。しつこい」 ミストは声に険を含ませながら、サイサリスを睨んだ。 対するサイサリスは、鋏と櫛を片手に目を閉じている。 その表情はまさに、「残念です」。 「綺麗なのに」 「しつこいといってるだろうが」 肩の、肩甲骨の辺りまで伸びたミストの髪。 それを切ってくれと頼まれたのは、ついさっきのことだった。 「それじゃ」 「さっさとやれ」 ミストは椅子に腰掛け、腕を組む。 その肩に白いタオルを掛けて、サイサリスは溜息を一つ。 「俺、切ったこと無いよ?」 「久しく切ってないからな。自分で切ってもいいんだが――」 「それは駄目っ!! 絶対ミストは短く切って、男みたいな髪型にするんだから!!」 「……言い切ったな」 「……言い切ったけど」 「だったら、四の五言わずに切れ」 「……イエッサー」 再び溜息を付いて、漆黒の髪に櫛を入れる。 さらりという感覚が伝わってくる。 癖の無い、漆黒の髪。 その毛先に、鋏を入れる。 金属が擦れあう音が大きく響く。 「お客さん、どの程度まで短く致しましょう」 「ジーンくら」 「それは駄目」 「……お前に任せる。俯いたときに落ちてこない程度に」 言いかけた言葉を遮られ、ミストは溜息混じりにそう言った。 一応納得したのか、サイサリスはにっこりと笑った。 自分の従弟と同じ顔で、従弟よりも優しい笑い方。 「イエス、サー」 「それにしても……お前、自分の髪はどうしてるんだ?」 「自分で切ってるよ? じゃきじゃきと」 「鋏?」 「ナイフでも出来るよ。こー、首に直角に当てて、ざっくり」 「……」 「何で黙るの?」 「よく、首を切らないものだな」 「コツがあるんだけど……やるなって言われてる」 「当然だ」 表情は伺えなかったが、サイサリスにはミストが笑っているように感じた。 肩が揺れる。 毛先が揺れる。 それだけの動作でも、伝わるものは、ある。 「サイサリス」 「んー?」 「今度……お前の髪、きってやる」 じゃきん。 金属が擦れあう音が、大きく、響いた。 先程よりも、大きく。 「……ごめん」 はらはらと切られた髪の毛が舞う。 謝るサイサリスの頬は、紅い。 「何だ」 「切りすぎた」 「丁度いい。こんな感じでやれ」 「あいあい。ごめんなさい」 「謝る必要は無い。俺が頼んだのだから」 どうかしていると、ミストは密かに思った。 昔の、少し前の自分であれば、確実に怒鳴っていただろう。 少なからず、自分はこの「神」に影響を受けている。 それを、自覚していた。 「終わったよ」 「ああ」 サイサリスの差し出してきた鏡を受け取り、小さく笑う。 そこに映るのは、紛れも無く自分。 六年前より長く、数分前より短い髪の毛。 「ありがとう」 がしゃん。 大きな音を立てて、鋏が床に刺さっていた。 サイサリスは、固まっていた。 「……」 「……」 「……ゴメンナサイ」 「直しておけよ」 立ち上がり、まだぎこちない動きをするサイサリスを置いてミストは部屋を出る。 その口元には、笑みが浮かんでいた。 |
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あとがき。 平穏なひと時。 こういった時間が、とても大切だと気付くのが、大切だと思います。 |
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