<MD>

 事務所にあるMDプレーヤーからは、前世紀の歌が流れてきていた。
 日本で今も活動を続けている、グループの昔の歌。
 それを聞いているのは、この事務所の持ち主。
「陸人」
「んー? 何だね、ワトソン君」
 奴は頭に三角巾を巻き、手にははたきを持って振り返った。
「これ」
「飽きた? だったら変えるけど」
「まぁ否定はしないがな。これ、前世紀の歌だろう?」
「前世紀って……」
「間違ってはいないはずだ」
「前世紀、ったって十四年しかたってないよ?」
 奴――神無月陸人――は苦笑を浮かべてこちらに近づき、プレーヤーからMDを取り出した。
 それは、かなり、古いものに見えた。
「……何年前のだ、それ?」
「んーっと……十八年前の?」
「俺が生まれた年じゃねーか。古いはずだ」
「俺のじゃないさ。貰い物だ」
「今は、お前のだろう」
「確かにね」
 笑い、奴は別のMDを入れる。
 今度は、静かなクラシックが流れ出してきた。
「……」
「何で黙るの?」
「いや、つくづくお前の趣味は破綻していると思ってな」
「何でさー。飽きたって言ったから別のにしたんだけど」
「変わりすぎだ馬鹿。お前の頭には中間ってのはないのか?」
「多分」
「答えるなよ……」
 俺は少し溜息をついた。
 やっぱり馬が合わない。
 なんでこんな奴の下で働いてるんだろう、俺は。
「だってさー、俺の趣味なんだもん。だったらワトソン君が編集してよ」
「……・言ったな」
「言ったよ」
「覚悟してろ」
 絶対、後悔させてやる。
 意気込んだところで、奴がまださっきのMDをいじっているのが見えた。
 それが、気になった。
「……なんで、さっきのMDまだ持ってんの」
「あぁ……これね」
 奴は笑った。
 いつもの笑い方と違い、何処か寂しそうな笑い方だった。
「十四年もたったのに、これはまだ健在だなー、って」
 ……奴の過去に何があったのか、俺は知らない。
 ただあの人格形成に深く携わっているのには間違いない。
 俺はそれについて、聞こうか聞くまいが悩み――
「すみません」
 その悩みは、扉につけた鈴の音によって遮られた。
 扉からこちらを覗いているのは、まだ若い女性。
 俺は横目で奴を見る。
 奴も横目で俺を見ていた。
「いらっしゃいませ、ようこそ神無月探偵事務所へ」
 奴が、笑いながらそう言った。
 俺は紅茶を入れるため、奥へと向かう。
 目の端で、奴がMDをポケットに入れるのが見えた。
 それが何を意味するのか、俺はまだ知らない。


           あとがき。
             MDって、カセットテープよりも長生きするらしいです。
             もっていないので分かりませんが。
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