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<電光掲示板> ビルの上から降りてくる冷たい風が頬を撫でた。 十二月の半ば。 辺りは肩を寄せ合うカップル達で溢れている駅前広場。 コートの襟を直しながら、和泉空は小さく溜息をついた。 何が悲しくて男二人で電光掲示板を見上げなければいけないのか。 先程から、電光掲示板には恋人に送るメッセージが流れている。 『アイシテル。カズオ。』 『結婚しよう。純』 『遅れてごめん。』 (……暇な奴等) 声には出さずに呟く。 この場所に連れてきた張本人は、隣で携帯電話に向けて何かを打ち込んでいる。 一心不乱に何かを―― 「何?」 張本人――神無月陸人が顔を上げ、こちらを見る。 同じくコートを着込み、にししと笑っていた。 「……何をするつもりだ?」 「いや、ちょっと行き詰ったんで」 「確かにな」 目を伏せて同意する。 今抱えている依頼が、どうにも進展を見せなくなった。 八方塞とか言う奴だ。 「それと、ここに来ることと、何が関係あるんだ?」 「うん。もうすぐ分かるよ」 そう言って、電光掲示板を見上げる。 相変わらず愛を紡いだメッセージが流れていたが、それが不意に。 『Self is wanted. Give self.』 横文字に、変わった。 空は英語が苦手だったが、それでもそれが愛を紡いでいないということは理解できた。 さらに、それは続く。 『神の不在より渡り鳥へ』 (神の不在?) 頭の中に疑問がわく。 神の不在。 それから、弾かれたように陸人を見た。 神の不在、神がいなくなる月が、旧暦にあった。 十月――神無月。 「……陸、人?」 「何? ワトソン君」 「あれ、今のお前が?」 「そだよ」 更に、笑う。 「渡り鳥?」 「それは僕のことだよ。アルビノ君」 空の質問に答えたのは、陸人ではなく第三者だった。 振り返る。 いつからそこにいたのか、男が一人そこにいた。 十二月だというのに、袖の無い深い緋色の上着を着ている。 それは、到底防寒性に優れているようには見えない。 男は、空を、空の後ろにいる陸人を見て笑う。 「やぁ陸人。久しぶりだね」 「そだねツバメ」 男――ツバメは薄い笑みを浮かべて、頷く。 「依頼?」 「そ。あー、なんつーか……」 「今抱えてる、依頼についての情報?」 空は思わず目を見開く。 何故、こいつは今抱えている依頼のことを知ってるのか。 陸人は一度もそんなことを口に出していないのに。 「Yes.」 「いいよ、明日までにまとめておく。どんな種類の情報を?」 「依頼人の過去、それも噂話の方を。事実は必要ない」 「それだけ?」 「それと――依頼人の近くにいるサングラスの男の事も」 「了解。また明日、この時間に」 笑い、ツバメは空に向き直る。 右手で、電光掲示板を指し、言う。 「見てごらんよアルビノ君。人は何も変わらず愚行をやってのける」 指された電光掲示板には、愛のメッセージ。 「それでも君は、人でいるのかい?」 その言葉の意味を掴みかねて、空は再びツバメを振り返り―― 「ッ!?」 そこには、もう、ツバメはいなかった。 それが当然のように、陸人はこちらを見て笑っている。 「……」 「訊きたそうだね。彼が誰なのか」 「ああ」 「彼はツバメ。俺に情報を売ってくれる『情報屋』さ」 「電光掲示板に送ったのは?」 「合言葉。俺とツバメの」 そのまま、歩き出す。 人がひしめく駅に。 「さ、帰ろ? 明日情報が届いてから行動を起こすよ」 陸人は空を待たずに歩いていく。 空もその後に続こうとして、 「……」 一度だけ、電光掲示板を振り返った。 そこには、やはり愛のメッセージだけが流れている。 踵を返し、空は人込みの中に消えた。 |
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あとがき。 電光掲示板には、有料でメッセージを載せれる奴があるらしいです。 新聞の広告と同じように。 |
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