そこにどれだけ雨が降ろうとも
 そこは緑を忘れたかのように
 赤褐色の地面をさらけ出している。

<荒野>

 月の光が地面を照らす。
 骨と、枯草と、サボテン。
 緑は一つもない。
「……そんなことをしても無駄だ」
 彼はそう言った。
「どうして? 何事もやってみなければ分からないはずだ」
「やらなくても分かることもある。お前のやっている事は無駄なんだ」
 彼の後ろから、大人達がこっちを見ている。
 異常者を眺める、軽蔑の目。
 それでも私は、スコップを地面に突き刺した。
「誰もやらない事が無駄だとは限らない」
 適当な大きさの穴をあけ、そこに木の苗を植える。
 小さな木は、しっかりと地面に立った。
「……上手くいけば、ここにも緑が溢れる」
 根元に水をかける。
 それが赤褐色の地面に染みこんでいく様子を、私も彼もただ見ていた。
「上手くいかなければ?」
「さぁね。上手くいくことしか考えていない」
「……はっ」
 彼が鼻で笑う。
 けれども、私は明るい口調で続けた。
「やってみなければわからない」
 それを教えてくれたのは、彼。
 けれども、今彼はそれを否定する。
「無駄だ」
「無駄かどうかは私が決めるんじゃない? だって君に迷惑はかけていない――ハズ」
「…………」
 彼の目の色が凍った。
 振り向かないで、そのまま続ける。
 振り向いたら、この顔を見られてしまうから。
「……皆、この町を捨てていく」
「へぇ……いつかはそうなると思ったけど」
「…………お前は、残るのか?」
 彼の口調は冷たかった。
 目頭が熱くなる。
 けれども、今泣いてはいけない。
「私は、木を植える」
「……無駄だ、そんな事」
 彼が踵を返した。
 段々遠ざかっていく足音。
 馬の鳴き声と、車輪が回る音。
 しばらくすると、それらは全て聞こえなくなった。
「っ……ふっ……はっ……」
 ぽたぽたと、木の根元に雫が落ちる。
 彼なら、分かってくれると思っていた。
 かってに思いこんで、期待していた。
「……ど……して……一緒……いこ……って」
 残るのか、ではなく、来いと言われていたら。
 私は振り向いていたかもしれない。
 けれども、それはありえない。
 『もしも』は『もしも』だから『もしも』で在り得るのだ。
「っ……ああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」 
 月がその光を空から注ぐ。
 その光に照らされるのは、私と、木と、渇いた地面。
 この渇いた地を緑で溢れさせることができるのなら
 この哀しさも虚しさも報われるのだろうか。




 青年は、少し眉を顰めた。
 十年前に捨てた町の残骸。
 井戸が枯れ、生活ができなくなった町を人々は捨てた。
 そこに残ったのは、身寄りのない一人の少女。
「……」
 彼は町を歩いていく。
 人の気配は、無い。
 けれども、その広場に十年前には無かった大きな木が生えている。
 誰かが世話をしなければ、到底その大きさにまではなり得ないだろう。
 彼はその木に向かって歩いていた。
 大きな木の周りには、小さな花が咲いている。
 荒野の中で、ここは場違いなほど緑で溢れていた。
「……?」
 その、巨大な木の根元に。
 寄りかかるようにして、緑の蔦にからまれた白い骨があった。
 比較的新しい、真白い骨。
 彼はその骨に手を伸ばした。
 軽く触れただけなのに、それはぽきりと折れてしまった。
「っ―――――――――!!」
 嗚咽を洩らす。
 少女は木を植え、花を育てた。
 彼女の骸さえ肥料にし、植物はこの枯れた土地に生えつづけた。
 十年前に無駄だと否定した光景が、彼の目の前に在る。
『何事もやってみなければ分からないはずだ』
『……上手くいけば、ここにも緑が溢れる』
 彼女の言ったことは、行ったことは、無駄ではなかった。
「っ……ああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
 緑の絨毯に膝をつき、彼は大声で泣き叫んだ。

           あとがき。
              『Where is really God』ではないオリジナル。
              初めて「彼」と「私」しか出てこない話を書きました。
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