<ベンディングマシーン>

 駅に向かう途中、陸人がいきなり立ち止まった。
 自販機の前で。
「何か買うのか?」
「うん、温かいの」
 そういって、物色を始める。
 やれ紅茶が良い、やれココアにするべきか。
 そう呟く陸人を横目に、空はふとあることに気付いた。
 ここは、そういえば。
「……決めたのか?」
「もーちょい。ミルクセーキにするか焼きプリンにするか紅茶にするかで」
「紅茶でいいだろ」
「でもこーいう紅茶って大抵美味しくないからさ」
 むぅ、とわざとらしい声を上げて悩む陸人。
 小さく、溜息をつく。
「っつーか、焼きプリンって何だよ」
「知らんのワトソン君。最近出たヤツでさー
 『あのプティングの美味しさを、貴方も体験しませんか』ってCM」
「……くどそう」
「飲んだこと無いからわからないけどね」
 いいつつ、ボタンを押す。
 自動販売機はぴ、っという電子音を立てた。
 けれども。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……あれ?」
「遅ぇよ」
 いつまで待っても、缶は落ちてこなかった。
 やはりまだ直っていなかったと、声には出さずに呟く。
「落ちてこない?」
「何で疑問系なんだよ」
「あー……焼きプリン……」
「そんなに飲みてぇのかよ」
「だってぇ……新発売でぇ、俺も見たの初めてだからさぁ」
「それで飲みたいと?」
「うん」
 空は露骨に顔をしかめて、溜息をついた。
 右手で避けるように指示し
「っ!」
 自動販売機に、蹴りを食らわせた。
 陸人は一瞬固まり、それから慌てだす。
「何してんの空、っていうか出ないからってそれは無いんじゃ」
 がこん。
「あ」
 間抜けな声を上げる陸人。
 落ちてきた缶は、二つだった。
 一つは、陸人がボタンを押した『焼きプリン』
 もう一つは、缶コーヒー。
「……何で?」
「前の家から中学行くのにこの通りを通っていた。それで同じように出てこなくて」
「……それで、蹴ったの?」
「最初にやったのは俺じゃないがな」
 小さく溜息をつき、空は陸人に缶を二つ渡す。
 早く駅に着かないと、電車に乗り遅れてしまう。
「俺に缶コーヒー飲めっての?」
「出てきたんだから仕方ないだろう」
「俺飲めない」
「じゃあ捨てるか?」
「ワトソン君飲んでよ。コーヒー飲めるでしょ」
「あのなぁ」
 缶コーヒーは好きじゃない。
 そう言い掛けて、小さく溜息をついた。
 陸人の手から缶コーヒーを奪う。
「……炭酸じゃなくて良かった」
「炭酸だったら俺もワトソン君も飲めないからね」
「いくぞ。寒いホームで十分待つのは趣味じゃない。俺は明日も学校なんだ」
「はいはい」
 笑いながら、焼きプリンのプルトップを開ける。
 一口飲んだ途端、その顔が固まりついた。
「……甘」
「当然だろ」
「……ワトソン君、これも飲まない?」
「生憎と」
 笑みの形を皮肉にして、空は笑う。
「俺は、甘いものは、苦手なんでなぁ」
「……酷い」
「缶コーヒー飲んでやってんだ。ありがたく思え」
 陸人は顔をしかめながら中身を飲む。
 駅からベルが聞こえてくる。
「……」
「……」
「……乗り遅れた……ね」
「陸人」
「な、何かなぁワトソン君」
「……覚えておけ」
 口元に壮絶な笑みを浮かべて、空はそう言った。
 陸人の背筋が凍りついたのは言うまでもない。

           あとがき。
             市内の自販機に、お金を入れても缶が出てこないのがあります。
             あれはホントに頭にくる。
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