<きょうだい 〜姉弟〜>

「旅に出ます」
「そうか」
 短い会話だった。
 黒髪、黒目といった、よく似た容姿の二人。
 一人は白い上着を羽織り、
 一人は上から下まで黒だった。
 一人はその黒い目に眼鏡をかけていたが、
 一人は掛けていなかった。
 一人は神を信じていないのに神父で、
 一人は神を信じていないのに教主だった。
 一人は名前をサイリ=ジュリテスといい、
 一人はミスト=サテリアといった。
「気をつけてな」
 ミストは表情を変えずに言う。
 サイリは少しだけ表情を動かした。
「前も、そう言いましたね」
「?」
「二年ほど前になりますか? ジーンとアゼルを探しに行ったときですよ。
 同じように、『そうか、気をつけてな』って」
「……そうだったな」
「そうでしたよ」
 サイリは柔らかく微笑む。
 対照的に、ミストは溜息をついた。
「今度もまた、ジーンか?」
「いいえ。ジーンは置いていきますよ。今回は」
 一拍置いて、言う。
「カインです」
「……そう、か」
 ぴくりと肩が動く。
 今度はサイリが溜息をついた。
「今度は何年ぐらいだ?」
「無期限で。カインにいろいろな物を見せたいのですよ」
「そうか」
 それで報告に来たのか。
 変なところで律儀な奴だ。
 ミストは内心、そう思った。
「まぁ、体に気をつけてな」
「そうですね。心がけますよ」
 踵を返して、背を向ける。
 扉に手を掛けながら、笑いを含んだ口調で、
「ミストも」
 そう、言った。
 意味を尋ねようとしたが、それより早くサイリは市長室を出ていた。
 笑っていた。
 嘲笑でも自嘲でもない笑みを浮かべて。
 溜息が出る。
 姉弟同然に育ってきた。
 そこいらの姉弟よりも、親しいと思っていた。
 だから、彼が変わったとき、少なからず自分は傷ついた。
 何かできると思い込んでいた。
 何も出来なかった。
 助けてやることも、一緒にいることも、出来なかった。
 だからなのだろうか。
 彼が旅に出たいと行ったとき、止めなかった。
 親の敵を見つけ次第、死ぬこともなんとなく理解していた。
 けれども。
「旅に出ます、か」
 止めれなかった。
「あーあ」
 死にたがっていた彼を変えたのは、誰だ?
 あの笑みの形を変えたのは。
 存在していてもいいのだと、そう思わせたのは。
 答えは一つしかない。
「カイン、か」
 一緒にいるのは姉弟でも他人でもできる。
 ただ、救うのは。
「……俺じゃ、出来なかったのにな」
 他人だった。
 そして、ミストは気付いていた。
 自分も彼ではなく、弟同然のサイリではなく。
 他人の奴に救われていることに。
 箱から煙草を取り出し、火を付ける。
 最近めっきり吸う本数が減った、煙草。
 それは確実に奴のせいだなと、ぼんやり考える。
 頭をよぎるのは、遠い昔の日々だった。 

           あとがき。
             きょうだいが下に二人いるといろんな意味で戦争。
             でも、いなければどこか物足りない。
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