<スカート>

 夢を見た。
 彼女がスカートを履いている夢だった。
 実際の彼女は、スカートを履かなかった。
 少なくとも、記憶の中にある彼女はスカートを履いていなかった。
 俺の、母親。
「ん……」
 夕暮れ前の、微妙な色の光。
 事務所の中はそれで満ちていた。
 ワトソン君はまだ、来ていない。
「あ……」
 微妙に体がだるい。
 眠っていたらしいが、どれくらい眠っていたかは思い出せない。
 なんで母さんの夢を見たのか考えて、ふと思い立った。
「あー……あれかぁ」
 今日、午前中にきた依頼人。
 年に似合わず、白いスカートを履いていた。
 似合わないとか思いながら話を聞いてたっけ。
 頭を振って立ち上がる。
 解けた髪がそれにあわせて揺れた。
 もう一回結いなおさないといけない。
 落ちた紐を拾って、鏡の前に立った。
 顔が映る。
 今年で、丁度。
「あー……」
 死んだ母さんに追いついた。
 父親よりも、俺は母さんに似た。
 半分しか血の繋がらない兄達とは、また、違う顔。
 髪の長さも、母さんと同じくらいだ。
 未だに囚われてると。
 あの出来事に囚われてると、ぼんやり思った。
 結わない髪は鳶色で。
 この色は父親とも母さんとも違っている。
 だからか。
「はは……」
 笑みが漏れる。
 きぃと音がして、扉が開いた。
「陸人」
 声がする。
 今、俺と同居している高校生――和泉、空。
 鏡を見ると、そこに映るのは馬鹿みたいに呆けた顔をした男だった。
 その男を嘲笑(わら)ってやる。
「なぁーに? ワトソン君」
 そう言って、俺はワトソン君の前に出た。
 少しだけ驚いた顔をしてから、小さく肩を竦める。
「今日は、鶏肉のソテーだ」
「いやっほぅ!」
 頭の中でスカートがちらつく。
 何時かあの夢を見なくなる日が、来るのかな。

           あとがき。
             陸人は何処となくサイサリスに似ていると書いていて思う。
             やっぱり同じ奴が書いているからなのか。
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