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<オムライス>

 コウが風邪を引いた。
 医者は「過労からくる発熱」と言っていた。
 本人は顔に出していなかったが、相当疲れていたんだろう。
 医者が帰った後、赤い顔で済まなそうな表情を浮かべていた。
「……ごめん」
 掠れた声で、そう言う。
 何を謝ることがあるというのだろう。
 機械の俺と、生身のコウでは違いがあって当然で。
 むしろ、謝らなければならないのはこっちの方で。
「何を謝ることがある」
「……」
「疲れていたならそう言え」
「……」
「黙っていては何も分からない」
 コウはそのまま、唇をかみ締めて黙ってしまった。
 気付かれないように溜息をつく。
「水、飲むか?」
「ん……」
 ピッチャーから冷たい水をコップに注ぎ、一度ベッドサイドの机の上に置く。
 コウを見ると、起きようとして苦戦していた。
 体の下に手を差し入れて、手伝う。
「ありがと」
 力なく笑う。
 見てられないと思った。
「飲めるか?」
「ん……」
 コップを掴もうとして、腕が震えていた。
 多分、持ったら零す。
 溜息が出る。
「コウ」
「なに」
「飲ませてやる」
 昔、俺が風を引いたとき、祖母がやってくれたことをやってみた。
 口移しで水を飲ませる。
 風邪を引いたときは、とにかく水分を取るのがいいらしい。
 唇を離すと、心なしかコウの顔が赤かった。
 やはり、熱があるらしい。
「眠ってろ」
 布団を掛けてやる。
 立ち上がろうとしたら、腕を掴まれた。
 眠ってろと、そう言おうとして。
 潤んだ蒼い目と目が合った。
 溜息が出る。
 ベッドの端に腰掛けた。
「ねぇ、アル」
「何だ」
「オムライス食べたい」
「……」
 閉口する。
 水も一人で飲めないくせに、何言ってるんだコイツは。
「……風邪、治ったらな」
「うん、食べに行こ」
「いや」
「え……」
 一瞬、コウが見放されたような顔をした。
 何でそんな顔をするんだ、馬鹿。
「食べれないこともないがな。いや、食べることは出来る」
「じゃあ、ね?」
「まぁ」
 いいか。
 ここはもう戦場じゃない。
 エネルギーの効率収集など、考えなくてもいいから。
「お前が治ったら、な」
「うん」
「しっかし……お前は、オムライス好きだな」
「うん」
「……ケチャップとデミグラスソース、どっちが好きだ?」
「ケチャップ」
「そうか」
「ね、アル」
「なんだ?」
「頭撫でて」
 半目でコウを見る。
 力なく笑っていた。
「アルの手、冷たくて気持ちいいから、さ」
「……」
 黙って撫でてやる。
 小さく、笑った。
「ね、アル。一つ約束ね」
「オムライス食べに行くことか?」
「あー違う……そうじゃない」
 俺の手を目に当てる。
 熱かった。
 体温を感じた。
 生きて、いた。
「目が覚めても、ボクの近くにいて」
「……Ja」(わかった)
 コウは笑った。
「Gute Nacht」
 グーテンナハト。
 おやすみ。
 呟いて、俺は頭を撫でた。
 窓枠を雨粒が叩いた。
 はやくやめばいい。
 アルバートはそう思った。
「治ったら、オムライス食いに行こう、な」
「うん」
 頷いて、コウは目を閉じた。

           あとがき。
             書いてる時は良かったんだが読み返してみるとこっ恥ずかしい。
             だから恋愛モノを書ける人を尊敬します。
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