[PR] この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。
<オムライス> コウが風邪を引いた。 医者は「過労からくる発熱」と言っていた。 本人は顔に出していなかったが、相当疲れていたんだろう。 医者が帰った後、赤い顔で済まなそうな表情を浮かべていた。 「……ごめん」 掠れた声で、そう言う。 何を謝ることがあるというのだろう。 機械の俺と、生身のコウでは違いがあって当然で。 むしろ、謝らなければならないのはこっちの方で。 「何を謝ることがある」 「……」 「疲れていたならそう言え」 「……」 「黙っていては何も分からない」 コウはそのまま、唇をかみ締めて黙ってしまった。 気付かれないように溜息をつく。 「水、飲むか?」 「ん……」 ピッチャーから冷たい水をコップに注ぎ、一度ベッドサイドの机の上に置く。 コウを見ると、起きようとして苦戦していた。 体の下に手を差し入れて、手伝う。 「ありがと」 力なく笑う。 見てられないと思った。 「飲めるか?」 「ん……」 コップを掴もうとして、腕が震えていた。 多分、持ったら零す。 溜息が出る。 「コウ」 「なに」 「飲ませてやる」 昔、俺が風を引いたとき、祖母がやってくれたことをやってみた。 口移しで水を飲ませる。 風邪を引いたときは、とにかく水分を取るのがいいらしい。 唇を離すと、心なしかコウの顔が赤かった。 やはり、熱があるらしい。 「眠ってろ」 布団を掛けてやる。 立ち上がろうとしたら、腕を掴まれた。 眠ってろと、そう言おうとして。 潤んだ蒼い目と目が合った。 溜息が出る。 ベッドの端に腰掛けた。 「ねぇ、アル」 「何だ」 「オムライス食べたい」 「……」 閉口する。 水も一人で飲めないくせに、何言ってるんだコイツは。 「……風邪、治ったらな」 「うん、食べに行こ」 「いや」 「え……」 一瞬、コウが見放されたような顔をした。 何でそんな顔をするんだ、馬鹿。 「食べれないこともないがな。いや、食べることは出来る」 「じゃあ、ね?」 「まぁ」 いいか。 ここはもう戦場じゃない。 エネルギーの効率収集など、考えなくてもいいから。 「お前が治ったら、な」 「うん」 「しっかし……お前は、オムライス好きだな」 「うん」 「……ケチャップとデミグラスソース、どっちが好きだ?」 「ケチャップ」 「そうか」 「ね、アル」 「なんだ?」 「頭撫でて」 半目でコウを見る。 力なく笑っていた。 「アルの手、冷たくて気持ちいいから、さ」 「……」 黙って撫でてやる。 小さく、笑った。 「ね、アル。一つ約束ね」 「オムライス食べに行くことか?」 「あー違う……そうじゃない」 俺の手を目に当てる。 熱かった。 体温を感じた。 生きて、いた。 「目が覚めても、ボクの近くにいて」 「……Ja」(わかった) コウは笑った。 「Gute Nacht」 グーテンナハト。 おやすみ。 呟いて、俺は頭を撫でた。 窓枠を雨粒が叩いた。 はやくやめばいい。 アルバートはそう思った。 「治ったら、オムライス食いに行こう、な」 「うん」 頷いて、コウは目を閉じた。 |
|
あとがき。 書いてる時は良かったんだが読み返してみるとこっ恥ずかしい。 だから恋愛モノを書ける人を尊敬します。 |
BACK |