<デリカデッセン>

 三者面談。
 午後からあるそれは空にとって苦痛以外の何者でもなかった。
 進学校にいながら、進学先を決めていない彼を教師達は何かと槍玉に挙げる。
 自分の容姿もその一因を担っていることも空は知っていた。
 白い――ある男はこれを見ようによっては銀髪に見えるとか抜かしたが空はそう思っていない。――髪。
 血の色のをそのまま映す赤い目。
 これだけでも十分目立つ。
 更に空は赤い目を隠すために前髪を伸ばしているから、校則にも違反している。
 それが目の前にいる担任には気に入らなかったらしい。
 空に理解を示す教師も幾人かはいるが、本当に少数だ。
「和泉」
「……はい」
「保護者はどうした? 三者面談が始められないじゃないか」
 口元に意地の悪い笑みを浮かべる教師。
 空は内心、小さく溜息を吐いた。
 唯一の肉親である祖母は今、アメリカで入院している。
 父も母もいない彼には「保護者」などいなかった。
 空が沈黙を返すと、教師はさらに笑みを深くする。
「……保護者は」
「前もって連絡しておいたはずだぞ? ん?」
「……」
「何を考えているんだかなぁ。お前は。この時期に進路も決めていない。
 成績をあげようと努力もしない。挙句の果てには三者面談に保護者も呼ばない」
「……」
「なぁ、何を考えてるんだ? 教えてろよ。俺にはアルビノの考えていること何て分からないからなぁ」
 俯き、膝の上で手を固く握る。
 嫌な笑いを浮かべる教師の顔を見たくなかった。
「和泉――」
「すいません道に迷いました遅くなってごめんなさい」
 担任教師が何か言う声に、高めの声が被さった。
 思わず空は、振り返る。
 そこにいるのは、彼の雇い主である――
「りく……と?」
「ごめんワトソン君、迷っちゃった」
 てへ、と口でいい、笑う陸人。
 それから担任に向き直り、一礼してから言った。
「どうもはじめまして。和泉空保護者代理の、神無月陸人です」

 それから先は空の予想していなかった展開だった。
 空が進学を望んでいないことは、勿論陸人は知っている。
『大学にいくことがそんなに大事なんですか?』
 そう、生徒を進学させることしか頭にない教師にいったのだ。
『俺は』
『進学して惰性に流されるよりも、自分のやりたいことをやる』
『そっちの方がいいと思います。進学を否定する気はありませんが
 この場合必要なのは先生の面子ではなくて、本人の意思でしょう?』
『それに――アルビノはもう障害ではないんですよ?』
『だから先生がやられたようなことは立派な人権侵害なんですが』
『訴えられても仕方ありませんよね?』
 開いた口がふさがらない担任の顔は滑稽を通り越して愉快だった。
 先を歩く男の背中を見る。
 鳶色の髪が背中で揺れる。
 男は総菜屋の中で、今晩のおかずを物色していた。
「陸人」
「んー? 何、ワトソン君」
「何で、お前」
 それから先は、言葉が続かなかった。
 視界の中で、陸人が笑う。
「ワトソン君は、こーゆうデリって嫌い?」
「……別に。自分で作ったほうが安いから使わないだけだ」
「そっか。ワトソン君らしい理由だね」
「……」
「俺はどっちも好きよー?」
「……」
「どっちも個人の持ち味が出てさ」
「……」
「受験とか進学もそんなもんだと思うんだよねー。個人の持ち味でいけばいいと思う。
 日本の学校は、やっぱり進学が中心だよね」
「……」
「俺はデリも好きだけど、やっぱり空の作る料理が好き。
 デリはいつでも食べれるけど空の作る料理は今しか、一緒にいるときしか食べれないからね」
「……う」
「ふえ?」
「……なんでもない」
「そっか」
 ありがとう。
 呟いた言葉は届かなかったが、それでも空は満足だった。
 陸人は小さく笑い、そうして言う。
「さて、晩御飯何にしようか」

           あとがき。
             デリの惣菜よりは家の料理のほうが好き。
             家庭の味、とでもいうのでしょうか。
BACK