<メモリーカード>

 ちゃりちゃりちゃりちゃりと鎖が軽快な音を立てていた。
 普段であればそれは聞き流すことが出来ただろう。
 それくらいには小さな音だ。
 しかし。
 それが十分も二十分も続いていれば――いい加減耳障りにもなるというものだ。
 あからさまな溜息を一つ。
 それから男は振り返った。
「ツヴァイ」
「んー?」
 間延びした声はソファーの向こうから返ってきた。
 細い手がひらひらと揺れて、その存在を誇示している。
「いい加減にしてくれないか」
「……何が」
「それ」
「それって、何」
 ぴょこり、とこんどはソファーの向こうから顔が現れた。
 金髪の、まだ若い女。
「鎖の音」
「うるさかった?」
「……耳障りなだけだ」
「それをうるさいっていうの」
 笑いながら、女――ツヴァイは音の元を掲げて見せた。
 幾重にも重なった細い鎖。
 それを解いていたのだろう。
「何しているんだ」
「鎖、解いてるの」
「何のために」
「無くさないように」
「何を」
「これよ」
 そういってツヴァイは金属のプレートを掲げる。
 所属する部隊と名前が書かれた金属プレート。
 それは、彼等を証明する唯一のもの。
「いまズィーベンに穴あけてもらったから、あたしが鎖通してるんだ」
「……何で」
「さっきも言ったでしょフィーア、無くさないように」
「違う」
 フィーアはツヴァイの言葉を遮った。
 きょとんとこちらを見上げるツヴァイ。
 フィーアはそのまま立ち上がりソファーまで歩いていく。
「何で、いまさら、そんなことをするんだ?」
「何でって、そりゃ」
 細い手が伸ばされる。
「センが来たからにきまってんしょ」
「……ああ」
 その言葉にフィーアは頷く。
 一週間前、戦場で死んだエルフの補充としてやってきたエルフ・セカンド。
 何故だか知らないが、ツヴァイはその少女を「セン」と呼んでいた。
 それが、フィーアには理解できない。
「でも、なんで」
「あのねぇフィーア。あんな小さい子を番号で呼ぶのアンタは?」
「…………」
「あたしは嫌よ。だからセンって呼ぶの」
「…………ああ、そうだな」
「でしょう」
 腕を伸ばして、その体を抱きしめる。
「だが、それがお前のやっていることと何の関係があるんだ?」
「うーん……たいして意味が無いとは思うんだけどね」
 そのまま手を伸ばして、ツヴァイは自分のプレートをフィーアに見せる。
 『特別遊撃部隊/2』としか書かれていない、ただの金属。
「あたしはね、そのうち皆に名前をつけるつもり」
「…………」
「何でまた、っていいたそうだねフィーア」
「ああ」
「あたし達には名前があったわ。でも、今は無い……というよりも、番号が名前でしかない。
 そしたら、戦争が終わったらどうなるの?」
「……」
「番号で呼ばれるのは、戦争の間。だから終わったときの為に、あたしは名前を考えるの」
「……それで」
「うん」
「お前がしていることは、そのお前の持論と何の関係があるんだ?」
「え?」
 そりゃきまってるでしょ? とツヴァイは言った。
「今のあたしを覚えておくためよ」
「未来のあたしを組み立てるどこかに今のあたしがいるの」
「だからあたしは、これを取っておくのよ」
「いつかのあたしと、アンタと、センと、みんなの為に」
 腕の中で小さく、笑う。
 そんな女性をフィーアは力いっぱい抱きしめた。

           あとがき。
             メモリーカード。
             最近はブロックじゃなくてバイト数だそうですねPS。
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