<風切羽>

 鳥を手乗りにする方法、知ってる?
 そう訊ねられて、アクアは首を傾げる。
 頬杖をついて、質問の主は彼女を眺めていた。
「わかりません」
「そっか」
「知ってるんですか?」
「知ってるとも」
 そう言って、質問の主――キロは笑う。
 スーツに白衣という姿が、とても似合っている。
「まず鳥を手乗りにするには、自分が人間だって理解させること」
「鳥なのに、ですか?」
「そう」
 くすくすと、何がおかしいのか笑い続けるキロ。
 手招きをし、アクアを招く。
「それから、風切羽を切る」
「どうしてですか?」
 やはり小首を傾げ、アクアは訊ねる。
 んー? と、少し間を置いて笑いながらキロは言った。
「遠くまで飛べなくするんだ。飛べなくなった鳥は、歩くしかないだろう?
 それに慣れれば、風切羽が生えてきたとしても、ぱたぱたと周りを飛んでも。
 ……決して、逃げていかない」
「どうしてそんなことをするんですか?」
「そうだねぇ……人間は厄介な動物なのさ。大切なものは手元に置いておきたがる。
 それに、鳥は空を飛ぶ。いつか自分の元から飛んでいかないか、心配なのさ」
「そうなんですか?」
「そうだとも。少なくとも僕の見解は、そうだ」
「……厄介ですね」
「そうだね」
 同意すれば、アクアも笑う。
 それから、ぱたぱたと飛んでいった。
 恐らくは自室の、鳥篭に向かったのだろう。
 その背中を見送り、ふうと溜息をついた。
 遺伝子変異種の人語を解すインコ。
 それが、アクアだ。
 本来ならば、欠陥品として処理されるべき彼女を、キロは引き取った。
 手乗りにして、風切羽を切り落とした。
 けれども彼女はそれを知らない。
 自分を『人間』だと思い、窓の向こうの大空を飛べることなど露ほどもしらない。
「……気付かないって言うのは、哀れを通り越して、いっそ滑稽だね」
 知りえなければ不幸は不幸にならない。
 自分を人間だと信じ続ける彼女と、そう仕向けた自分に向けて、キロは嘲笑を浮かべた。

           あとがき。
             短いですが書きたいことは書けたと思ってます。
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