今ここにある景色を 今ここで変わらない物にしたいと思うのは ささやかなるワタクシの美学なのです。 <ポラロイドカメラ> あっという間だった。 中学三年間。 ついこの間入学したと思ったら、もう卒業なのだから。 「あー時が経つのって早いねー」 「そう感じるのは年取った証拠なんだと」 「黙れ達哉。貴様のほうが誕生日早いだろうが」 後ろでぼそりと呟きやがった男子生徒の襟首をつかむと、彼は口の端を吊り上げて 「じゃあ、お前はガキな」 と、言い放ちやがった。 あー、マジ苛つく。 「っ……じゃあ貴様は何なんだ? ん?」 「俺様」 「っ――!! ふっざけんなぁっ!!」 「へっ」 「相変わらずだな、お前等」 苦笑交じりのその呟きに、私は心当たりが合った。 私と、達哉の幼馴染。 幸柳、涼斗。 「涼斗、テメェは他人のフリしてんじゃねーっ」 私は彼の首に手を回し、締める。 「あっはっは、ガキだなお前」 達哉は笑う。 「達哉、苛つくからソレもう言うなっ!!」 「あー? じゃあいってやるよ。ガキガキガキ」 「言うなってんだろこのボケっ!」 「あー、騒いでるところ悪いんだがな。二人とも」 私に首を締められている、涼斗が冷静な声をあげた。 その顔にはやはり、苦笑が浮かんでいる。 「どっちもどっちだと思うぞ、俺は」 「「コイツと一緒にするんじゃねぇっ!!」」 ああ、なんでこんな時だけ気が合うのだろう。 いつもは全くといっていいほど気が合わないのに。 軽く溜息をついて、私は鞄の中を漁った。 「あのさ、うん」 「一人で納得されても仕方がないんだがな」 「いやそこで突っ込まないでよ涼斗」 「で、何」 「写真とらない?」 私の目の前で、二人は見事に固まった。 「何、言ってんだ?」 「おかしくなったか? ついに」 涼斗の驚いたような顔と、達哉のあきれた顔と。 少しだけ、言わなければよかったと後悔した。 「いや、忘れてくれる?」 「……そこまで言いかけたんだ。はっきりいえ」 「そーだそーだっ! きりきり吐けっ!!」 「別に気にしないでって」 「言え」 涼斗に凄まれて。 「言え」 達哉に笑われて。 仕方なく、私は笑顔を作る。 「カメラ持ってきたんでー、写真を取りたいなーと」 「その脈絡は」 「今日で中学生活終わっちゃうから」 「……それで人生終わりってワケじゃないだろうが」 涼斗は相変わらずそっけない。 「バカだよねー」 達哉は相変わらず笑っている。 いつもの二人に、私は小さく溜息をついた。 「…………言ってみただけだから。忘れて」 私もきわめて笑顔で返す。 少しだけ残念だと思ったけどね。 「あーあ。もう会えないねー。きっと」 卒業式まであと三十分。 それが終われば――きっと、私達をつないでいる物はなくなる。 ただの幼馴染で、クラスもずっと同じで。 ただ、それだけだから。 「達哉」 「なんだね涼斗」 「俺さ、そうやって言われるとすっごくなんかさー」 「ああ、俺も同感」 「だよな」 「だね」 「……? なに?」 私は多分今、とても間抜けな顔してるんだと思う。 でも、彼等はそれに構わずに。 「達哉、押さえおけ」 「イエッサー」 「はっ、はっ? 何っ? 何アンタ等っ!?」 達哉が私の首根っこを押さえ込む。 その間に涼斗が私の鞄を漁る。 「みっけー。ポラロイドカメラなんて、粋なモンもってんねー」 「いや、ちょっと」 「だから写真取りたいって言ったのかなぁ? うん。やっぱ君の思考回路はおもしろい」 「人の鞄勝手に漁らないでってばっ!!」 「うーん、君が言い出したことだろう?」 涼斗がこっちに歩いてきて、ついでに達哉の肩に手を回す。 当然首を押さえられていた私はその間に居るわけで。 「ハイ、チーズ」 ぱしゃり。 ぴー。 真っ黒い、枠のついた写真が出てくる。 涼斗はそれを取り、思いっきり振る。 「これで満足?」 写真を渡されて、私は少し戸惑ってしまった。 「おー、結構言い出来じゃん?」 「な……何で?」 「んー? 何か君が気落ちしてるみたいだからさ」 「俺達からのささやかなプレゼント」 ……ああ、めっちゃくちゃ嬉しいんですけど。 「で」 「で?」 「浮上した?」 「した」 へっ、と口の端を吊り上げる達哉と。 目を細める涼斗と。 「ありがと」 多分、今度は自然に笑えていると、思う。 「さぁて、間抜け面した皆様を思いっきり笑ってやろうじゃありませんか」 「おう、やろうじゃないか」 「最高ーだね、君の思考回路は」 涼斗と達哉が笑う。 私はポラロイドカメラのフィルムを胸ポケットに入れた。 今、ここにある、君達との思い出を。 とても儚いそれを写真に残して。 いつまでも取っておこうじゃありませんか。 ささやかなるワタクシの美学。 |
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あとがき。 卒業式シーズンにちなんで卒業式のお話。 そこで終わりじゃないけれど、泣いてしまう人が多いです。 |
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