どうして。 
 俺はただコイツを守りたいだけなのに。

<毀れた弓>

 岩と岩との間に隙間を見つけた。
 そこにコイツを横たえて、俺も滑りこむ。
 しばらくは見つからないだろう。
「生きてるか?」
「……いちお」
 俺の問いかけに、小さく呻くような声が返ってくる。
 それに安心して、俺はポケットから煙草を取り出した。
「しばらくは見つからないだろーな。きっと」
「……悪いな」
「何言ってんだボケナス。ただ食い減らしの為に殺されたくねぇだろ」
 横目で奴を見る。
 止血のためにまいた布は血を吸って真っ赤になっていたが、もう止まっているようだった。
「……なぁ」
「なんだ」
「……ナナ……死んでないよな」
「……奴がそう簡単に死ぬようなタマか?」
「もっともだ」
 引き攣った笑みが響く。
 俺はそういったものの、自信が無かった。
 傷ついたコイツと、俺を逃がすために少女は弓を持って走っていった。
 『大丈夫』、だと。
「キオもナツコも……大丈夫だよな」
「きっとな」
「警察……何とかしてくれるよな」
「そうだな」
 静かに息を吐く。
 未だに大人を信じているコイツが少しだけ哀れだった。
「なぁ、ゆーいちろー」
「んー? なんだアヤ」
「……いや、何でも無い」
 奴が――彩が何を言いかけたのか、俺にはわかった。
「お前を置いて逃げやしねーよ。誰が逃げるか、誰が」
「……でも」
「俺は逃げてんじゃねぇ。体制を整えてるだけだ」
 足元に投げておいた弓を取る。
 毀れているそれに弦を張り、いつでも矢を撃てるようにしておく。
 練習中だった俺達の武器は、それしか無かった。
「なぁ、祐一郎」
「なんだよ、彩」
「俺達、隣町までいけるかな」
「……」
「隣町までいって……このこと、伝えられるかな」
「ああ」
 すぐ上で足音がする。
 彩を庇うように、俺は立ちあがる。
「いたぞっ!!」
「二人だっ!!」
 騒ぐ大人の眉間にねらいをつけて。
 俺は、弦を引いた。

 遠くで大人の声がする。
「被告人東海林祐一郎は――」
 彩は、助からなかった。
 あの後俺は捕まって、彩はそのままどこかに連れて行かれて。
 助からなかったと、聞いた。
「大人、五人を殺した罪により――」
 ナナもキオもナツコも、助からなかった。
 残ったのは、俺だけ。
「死刑」
 そうした俺も、大人達に連れて行かれて殺される。
 それに反論する気持ちも、起きなかった。
 何処か弦が切れてしまったように、俺はもう何も思えない。

           あとがき。
              弓道の弓でも当たり場所が悪ければ人を殺せるそうです。
              弓の弦が切れるように、感情の線は簡単に切れてしまいます。
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