騒々しい音の渦。
 わだかまる煙草の煙。
 それが気にならない程度に、私はそこに入り浸っていたらしい。

<パチンコ>

 五月蝿い。
 煙たい。
 それが私の、最初にそこに入った時の感想だった。
 彼に連れてこられなければ、きっと一生入ることのなかった場所。
「ねぇ」
「何」
「面白い?」
「…………微妙」
 視線をこちらに向けずに、ぽつりと呟く。
 溜息をついて、私はパチンコ玉を台に入れた。
 五月蝿い。
 煙たい。
 五月蝿い。
 煙たい。
「面白い?」
「何が」
「当たらないじゃん、さっきから」
「さあな」
「分からないのにやってるんだ」
 サイボーグの猫がマシンガンを撃って走っていく。
 少年漫画のキャラクターらしかったが、名前は忘れた。
「……何て言ったっけ」
「何が」
「この猫」
「クロちゃん?」
「それ」
 私達の会話は基本的に短い。
 彼は会話をしようという気が無いらしい。
 私はどうでもいい。
 彼と一緒に居られるなら、こういう所だって入る。
 彼が会話をしないなら、時たま話題を振る。
 それで良い。
「思い出せなくてさ」
 正しくは、それで良かった。
 ここ一週間もこの場所に連れて――もとい着いて来て。
 厭きない方がきっとおかしい。
「ねぇ」
「ん」
「私とパチンコ、どっちが好き?」
 だから聞いてみた。
 彼は相変わらず台に視線を向けたまま、聞えるか聞えないかの小さな声で答える。
「パチンコ」
 …………右手で、その頬を張った押してやろうかと思った。
「だってお前は『大好き』だから」
 …………だけど、やめた。
「そーゆーのって屁理屈ってんだよ? 知ってる?」
「知らない」
「言うと思った」
 隣の台が騒がしくなった。
 どうやら、当たったらしい。
「私、チョコレートがいいな」
「考えとく」
 この騒がしい場所に付き合うのを、もう少し考えようと。
 笑うのを必死に堪えながら、私は思った。

           あとがき。
              短い。ただそれだけの話。
              比べられたら答えられないと思う。
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