造られた空から雨は降るし、 雷だって、落ちてくる。 <かみなり> 窓の外が白く染まり、続いて轟音が響く。 暗く垂れ込めた空からは、人工的な水滴が落ちてくる。 全ては作り物だと、アルバートは知っていた。 「何見てるの?」 「……雷」 「珍しいの?」 「珍しくない。だが、珍しい」 アルバートは真顔で答える。 幸にはその意味が理解できない。 「どっちなのさ」 「……雷自体は珍しくない。だが」 幸の顔から視線をそらし、アルバートは再び窓の向こうを見た。 再び響く轟音。 「現在の科学は雷さえも再現することが可能らしいな」 「……?」 「俺の時代はな、この国には雨ばかり降っていた。雷なんていうのも珍しくない。 だけれども――それは俺達の手には余るものだった」 「……何が言いたいのか、ボク分からないんだけど」 「……つまり……何が言いたいんだろうな?」 「聞かれても困る」 幸もアルバートの顔から、窓の向こうへと視線を移す。 暗雲の中に光る閃光。 彼女には珍しいとも思えない、自然現象。 「原理は静電気……なんだって」 「……静電気?」 「冬場に金属に触ったりするとパチッとくる、アレ」 「……ああ」 納得がいったのか、アルバートは軽く頷いた。 人は雷さえも造れてしまうのだと、それほどまでに科学が進化したのだと。 そういうものだと納得し、理解するしか彼には出来ない。 「あれが、雷なのか」 「……いや、びっみょーに違うからね。静電気が雷なんじゃないからね。雷の原理が静電気、なんだよ?」 「……」 「分かる? 静電気が雷なんだったら毎年冬になると感電死する人が出てくるからね」 「……違うのか?」 「原理だっつーの!!」 理解したようで理解していなかったアルバートに、幸は溜息をついて見せた。 「規模が違いすぎるよ……」 「……そうだな」 体をソファーに沈め、口元に小さな笑みを浮かべる。 また、雷が落ちる。 「ただの静電気であれば、奴等が兵器に利用するな」 目を覆う手のせいで表情はよく分からないが。 その笑みはまるで兵器である自分自身をも笑っているように見えた。 少なくとも、幸には。 「……アル、バート?」 「……そう言えばどうして、出発を延ばしたんだ?」 「は?」 「本当は今日この街を出るつもりだったろう? それが何でまた出発を延ばしたんだ?」 「……あー、そのー、大変言いにくいんですがね、アルバートさん」 「何だ? さっさと言え」 「あー」 幸はしばらく明後日の方向を見ながら呻いていたが、少しだけ頬をかいて呟く。 「かみなりが」 「雷が?」 「……雷が、アンタに落ちると大変だって、思ったんだよ」 その顔は、見事なまでに赤かった。 「っ……くっ……」 アルバートは顔を反らし、喉の奥で笑う。 幸は恨めしげに彼を睨みつけたが、彼には効かない。 笑い続けるアルバート。 「言わなきゃよかった」 「すまないなっ……そんなこと、考えても見なかった」 「人がせっかく心配してんのに笑いやがって」 「悪かった」 「もうぜってー心配してやんねーから」 見事にむくれてしまった幸。 気づかれないように溜息をつき、アルバートはその頭を撫でた。 「……だ……ありがとう、幸」 「……どういたしまして」 返ってきたのはぶっきらぼうな言葉だったが、彼はそれで十分だった。 窓の外で雷が轟く。 作り物のそれは、本物に比べて何処か軽い。 いつか、彼女に本物の「かみなり」を見せてやろうと。 彼は、アルバートは密かに思った。 |
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あとがき。 <イェーンザイツ・デス・ヒンメル>の二人。 雷の原理が静電気と同じだってのは信じられないです。 |
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