子供はあまり、好きじゃない。柔らかくて脆くてすぐに死ぬから。
子供はあまり、好きじゃない。無防備な笑顔で誰にでもついていくから。
――そうだというのに。
何でだ?
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それは見たことのない子供だった。
というか、187の中で見たのは初めてな気がする。
見た瞬間酷い違和感と吐き気に襲われた。
原因は明確だ。
――子供が右手に持っている、未だに拍動を続ける誰かの心臓。
俺は、その子供が嫌で嫌で仕方なかった。
子供らしさなんてどこにもない、黒ずくめの子供。
そんな俺の心情なんか知らずに、それは俺の右手を開いて。
S、O、R、R、Y、M、Y、N、A、M、E、I、S、G、A、D、G、E、T。
そう、綴った。
――気の利いた小道具(ガジェット)
その名前に目を見開く俺をよそに、子供は続ける。
『I can understand Japanease,But I can't speak anything.
The reason is that,So Please allow to me to write ward your palm.』
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ゆっくり、掌が赤で塗りつぶされていく。
ぺたりという感触が、少し気持ち悪かった。
その行為を何とも思っていないのか、子供は更に続ける。
『I am searching My MASTER.Have you seen My MASTER?』
どべしゃ、と醜い音を立てて心臓が赤を吐き出した。
空気が血腥さに犯されていく中、子供は薄い笑みを浮かべて俺を見上げている。
その目にはなんの濁りも無くて、だからこそ酷く気持ちが悪かった。
――子供が、赤を纏って、笑っているのが、酷く、
『Mr?』
こてん、と子供は首を傾げる。
それから俺の視線が何処に向いているのか気付いたのか、にこりと笑って。
『Present!』
オミヤゲ、と躊躇いなく綴られる言葉に――鳥肌が立った。
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「ガジェット」
ぴくりと子供が肩を跳ねさせる。視線を追えば、その先に人間がいた。
男か女かは、よく分からない。
子供はそれに駆け寄って――心臓を、手渡した。
それが子供の『御主人様』だと、直観的に理解した。
「あぁ、よくやったね。イイコだガジェット」
それは子供を褒めた。子供は嬉しそうに笑った。
――なんて異常な光景だろう。
人を殺してその心臓を抉ってくる子供が、何より子供にそんなことをさせる人間が。
俺の視線に気が付いたのか、それはニィと笑った。
嫌な、笑い方だった。
「ホラガジェット、彼に――蜥蜴氏にお礼を」
言われた通り、子供はぺこりと一礼する。
その拍子に、左手から赤が滴り落ちた。
俺の網膜に、その無邪気な笑顔が焼き付いている間に
――子供は闇に消えていた。
数日後、指名手配犯が惨殺されたと社長が愉しそうに言っていた。
なんでも心臓を抉り取られていたらしい。
あの子供のことが、すぐに頭に浮かんで消えた。
――やはり世界は酷く歪んでいて。
そんな世界で生きる自分に、小さく小さく笑みが零れた。
歪んでいようとなんだろうと、生きているのだからしょうがない。
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